【馬車道歴史散策】西洋の香り漂う明治モダンなパブリックアートを探しに行こう!

横浜開港以来、積極的に西欧の文化を取り入れてきた馬車道。
日本の誰よりも先に新しい文化に触れてきた人々の息吹は現代にも受け継がれ、通りはさまざまな文化的モニュメントにあふれています。
150年の歴史を持つ馬車道は、往時の和洋折衷の香りを残す絵タイルやマンホール、ベンチ、スツールをはじめ、著名な芸術家による作品なども街角に建てられ、散策しているだけで美術館さながらの視点で楽しむこともできるのです。
足元も見逃さないで! レンガに埋め込まれた150年前の記憶
馬車道の名前は、居留地に暮らしていた外国人が使った馬車の往来があった通りだったことに由来します。馬車は当時の日本人には目新しいもので、いつしかこの場所を馬車道と呼ぶようになったわけです。
現在では、さすがに馬車は走っていませんが、こんな形でその姿を残しています。

レンガで舗装された歩道には、一定間隔で馬車が描かれたタイルが埋め込まれていて、馬車道らしさを演出しています。
また、マンホールに描かれているのは、馬車道商店街のシンボルマーク。馬と車輪がデザインされたマークは、通りのいたるところで目にしますが、足元も見逃さないでください。

車道にも、こんなレリーフが設置されていて、いたるところに馬車道らしさを感じさせる演出が施されています。

絵タイルは馬車の意匠のほか、この地が国内で初めて事業としてのガス灯が建てられた場所でもあることから、ガス灯をイメージしたデザインも作られています。

今でも馬車道商店街の道沿いにはたくさんのガス灯が立っていて、驚くことにすべて現役。形だけがガス灯というのではなく、今もガスで火をともしているのです。
レトロモダンなベンチでちょっと一休み
絵タイルやマンホールと同様に、レンガ造りの馬車道を散策していてよく目にするのがベンチとスツールです。
ベンチは緑色の金属と木の組み合わせで、馬車道の雰囲気に合ったレトロなイメージ。もちろん実用品ですから、ここに座ってちょっと休憩、といった使い方をしている人が多く見られます。

背もたれの部分には馬車道のシンボルマークがあしらわれていて、周辺の景色とも一体感を感じさせてくれます。

また、一人用の腰掛けも置かれています。こちらは石材の模様を生かしたシンプルなデザインになっていて、ノスタルジーというよりはアーティスティックな雰囲気を醸し出しています。

これらもまた、古き良き横浜を伝える馬車道独特の景観づくりを担っているようです。
アイスクリームと深い関係? 太陽の母子像
さて、ここからは芸術家によって作られた作品についてご紹介していきましょう。
まずは、馬車道のシンボルの一つにもなっている『太陽の母子』像です。
札幌市出身の彫刻家である本郷新氏によって作られた作品で、1976(昭和51)年からこの場所に展示されています。

実はこの像、アイスクリームと深い関わりのある像なんです。
日本の玄関口として、それまでになかった西洋文化が多く入って来た場所であった馬車道には、“日本初”と呼ばれるものが多くあり、アイスクリームもその一つです。

明治2年に日本で初めてのアイスクリームが「あいすくりん」の名で製造販売されたことを記念し、日本アイスクリーム協会が寄贈したものだそうです。
わが子を見つめる、お母さんの慈愛に満ちた眼差しが印象的なブロンズ像で、母乳で子どもを育む母の姿と、アイスクリームの原料であるミルクを連想して制作されたとも言われています。
街角が美術館!? 近代的な芸術作品も
クラシカルなブロンズ像はレトロな雰囲気のある馬車道にマッチしていますが、昔を懐かしむだけでなく、新しいものを取り入れることも得意なのが馬車道の良さです。
通りには、もっと近代的なパブリックアートも点在しています。
その一つが、この『浜の時守』で、児玉慎憲氏による作品です。

ステンレス製のモニュメントクロックで、最上部には時計が取り付けられています。
1988(昭和63)年の作品ですが未来を感じさせるデザインで、時計でもあるという実用性の高さも単なる芸術作品とは違った趣を漂わせています。

こちらの『新風』は、1977(昭和52)年に国際的な金属造形作家である小田襄氏によって作られた作品です。
横浜ロータリークラブの設立50周年を記念して、馬車道通りの中でも関内駅側に近い馬車道広場に展示されています。そのため、馬車道散策をする人を最初に迎えてくれるパブリックアートでもあります。
関内ホールも要チェック。周辺にたたずむパブリックアート

馬車道を訪れる人の中には、関内ホールで行われるさまざまな催しを目当てにしている人も少なくないでしょう。その関内ホールの周辺にも、見逃せないパブリックアートが存在します。
関内ホールの正面入り口前に建っているのが、『平和Ⅰ』です。

また、関内ホールの裏手の楽屋口前には『平和Ⅱ』があります。
ともに、ハンガリー生まれでフランス人の女性芸術家マルタ・パン氏の作品です。第13回高松宮殿下記念世界文化賞の彫刻部門を受賞し、日本国内でも東京都庁や箱根・彫刻の森美術館などに作品を残す芸術家として知られています。
関内ホールは、かつて横浜宝塚劇場と呼ばれる劇場、映画館でしたが、1986(昭和61)年に現在の姿に建て替えられていて、その際にこの作品も制作・展示されました。
また、関内ホールの正面向かって右手側、入船通り沿いには『ニケとニコラ』があります。

こちらも1986年の関内ホール落成を記念して展示されたもので、東洋のロダンと評された朝倉文夫の次女である朝倉響子氏の作です。

街角で立ち話をする2人の少女は、存在感を放ちつつも、街の風景に溶け込むようにたたずんでいます。
実は珍しい? 馬を象ったこだわりのポール
さて、最後はもう一度、馬車道らしいパブリックアートに戻ってみましょう。
馬車道通りの車道と、レンガ造りの歩道の境目には、こんなポールが建てられています。

名前の通り馬に縁のある馬車道ですが、意外にも馬単体をモチーフにしたものというのはあまりありません。シンボルマークにも馬をデザイン化したものが使われていますが、リアルな馬を象った意匠は限られています。

植栽保護の役割も与えられたお馬さんは、来る日も来る日も歩道を歩く人々を、優しい眼差しで見つめ続けているのです。
紹介してきたように、馬車道は散策するだけで数々のアートに触れられる場所です。
ここで取り上げたものだけでなく、ほかにもたくさんの芸術作品や記念碑が存在し、150年を誇る歴史の長さと文化性の高さを示してくれています。
馬車道を訪れた際は、お目当ての場所だけでなく、そこにたどり着くまでの道すがらも楽しんでみてはいかがでしょう。きっと、単なる移動がもっと豊かな時間になるはずですよ。