【歴史の宿 金具屋】ジブリのモデルにもなった!? 登録有形文化財の宿で宮大工の粋に触れる

長野県渋温泉の老舗旅館「歴史の宿 金具屋」は和風建築のテーマパークのような温泉宿。見上げると社寺仏閣のような荘厳な趣を感じさせ、館内では遊び心あふれる粋な造作が随所に見られます。
現在の建築基準法では建築できない希少な木造4階建てで、文化財でもある建物はジブリの『千と千尋の神隠し』の舞台とも噂されています。
外観も内装も見どころたっぷり! 文化財の宿を探訪

石畳の小路に沿ってレトロな木造の建物が軒を連ねる長野県渋温泉。浴衣姿と下駄履きでの散策がよく似合う、湯の町情緒漂う温泉地です。

その温泉街の真ん中に、木造4階建ての建物がひときわ目を引く和風旅館「歴史の宿 金具屋」があります。創業は1758(宝暦8)年、鍛冶屋(金具師)だった初代が渋温泉に移住し、裏山の土砂崩れで被災した際に敷地に温泉が湧き出たことが温泉宿の始まりと伝わっています。

昭和11年に完成した木造4階建て「斉月楼」と130畳柱なしの「大広間」は国の登録有形文化財。宮大工の匠の技が散りばめられた建築は、時を経てますます風格を増しています。「斉月楼」を建てた6代目主人は、宮大工をたくさん連れて日本各地の名建築をまわり、とにかく立派で豪華なものを造るために情熱を傾けたといいます。

「斉月楼」3階の廊下の壁面の窓枠には水車の歯車を使うなど、いたるところに凝った意匠を見ることができます。
廊下はただの通路ではなく匠の技の見せどころ!

「斉月楼」では客室を独立した家屋のように扱い、廊下は路地に見立てました。1階の廊下は頭上に軒が連なり、軒下に提灯が並びます。天井は青く塗装され、床には飛び石に見立てた造作が施されています。屋内にいながら、まるで野外の路地を歩いているような気分になります。
踊り場に富士山! 宮大工の遊び心に感服!

「斉月楼」の階段を降りると、踊り場で不意に富士山と満月に出合います。窓枠を富士山に見立て、その上にぼんぼりの満月がかかります。使い込まれて黒光りする階段や手すりの重厚な風情に、遊び心ある富士山の意匠が和やかに調和します。
29室の客室はすべて異なる造り

「斉月楼」は約15mの杉の通し柱で立ち上げた4階建ての楼閣に、わずか7室の客室しかない贅沢な造りです。宿全体でも客室はすべて和室の29室で、その一つ一つの造作はすべて異なります。
305号の「杏林」は6代目主人が最も好んだ部屋で、ステンドグラスを配した広い縁側がある擬洋風の佇まい。昭和初期の流行を色濃く残すレトロな風情は、外国人観光客にも人気です。
レトロな風情と上質な源泉で温泉三昧!

金具屋には3つの大浴場と5つの貸切風呂の、計8ヶ所の温泉浴室があります。すべて源泉かけ流しで、蛇口から出るお湯まで温泉です。昭和25年に造られた浪漫風呂は、ステンドグラスとローマの噴水を模した湯船が、戦後に流行したクラシカルな洋風文化を今に伝えています。
地下3mから自噴する温泉は鉄分が多いためにわずかに濁り、保湿力に優れて肌がしっとり潤います。金具屋は4つの自家源泉と5口の共同引湯の権利を所有し、多彩な湯船を巡りながら異なる湯触りの温泉を楽しむことができます。
館内ツアーで和風建築の粋を見学!

金具屋では建物の建築や歴史を解説する無料の館内ツアー「金具屋文化財巡り」を、毎日夕方17時半から宿泊者限定で開催しています。宿泊して温泉と食事を楽しむだけでなく、館内を巡って見事な建築を見学する、文化財の宿ならではの楽しみです。古材の温もりが包む館内も客室も、この宿でしか味わえない極上空間。この宿で過ごす時間は、昭和初期へ時を遡る時間旅行となります。