最古の織元が継ぐ、堅牢で華やかな「博多織」

「仕掛けが8割」。これは、博多織において数千本にも及ぶ経(たて)糸を、織機の小さな穴に1本ずつ通していく緻密な作業の大切さを説いた言葉です。この高密度の織りによって、江戸の昔から「刀を差しても緩まない」と男性の帯として重宝されてきたのが「博多織」。近代以降はデザインの自由度が高まり、女帯の生産も盛んに行われています。ここでは、現存する博多織最古の織元「西村織物」の見事な作品をご紹介しましょう。高価な素材を使い、職人仕事の粋がこめられた織物は決して安くはありませんが、価格以上の値打ちを秘めた逸品。手頃な角帯や、和装小物から入門してみるのも一手です。
写真上:「袋帯 佐賀錦Ⅱ 立涌」(店舗のみでの販売、価格は要問い合わせ/幅8寸(302mm)以上×丈11尺5寸(4347mm)/絹77%、金箔※ポリエステル11%、分類外繊維12%)
江戸時代、鍋島藩(佐賀)に始まった佐賀錦という織物、その代表的な柄である紗綾型文様に、水蒸気のわき立つさまを表す吉祥文様を組み合わせ、贅を尽くした袋帯。(写真提供:西村織物、以下同)
博多織の起源は、鎌倉時代にさかのぼるとされます。博多の商人が当時の中国・宋で学び、日本にもたらした織物の製法を、室町時代にやはり中国へ渡った彼の子孫が改良工夫し、博多織と名づけたそうです。江戸時代には幕府への献上品に選ばれ、博多織の帯の代表的な柄である「献上柄」は全国に知られるようになりました。

「角帯 刺子縞」(ベージュ、緑、うすグレー、エンジ各42,120円・税込、以下同/2寸5分×11尺(9.5×416cm)絹100%)
布地を補強するための細かな刺し縫いを刺子といいます。その刺子の風合いを縞柄に収めた男性用の角帯です。
「西村織物」の西村家は、室町後期に生糸貿易商人として豊臣秀吉から家紋を授かり、江戸末期の文久元年(1861年)に織物業を創始。太平洋戦争で工場・会社をすべて焼失するも、焼け跡から立ち上がり、昭和32年(1957年)には機械織りに移行して、平地に加え紋地の織物を開発するなど新機軸を取り入れつつ、博多織は6代目の現当主にまで継がれてきたのです。日本の近世・近現代を貫く、壮大な歴史を帯びた織物であり、織元なのですね。
和小物などにも活用されています

「伊達がま口」(オレンジ、濃ピンク、水色、黄緑各2,808円/8.5×5cm/絹100%※留め金は鉄)
柔らかな伊達締めの生地を使う、かわいらしいがま口です。
博多織の素晴らしさを江戸に喧伝したのは七代目・市川團十郎。落語界では真打ちに昇進すると「西村織物」の帯を締めて高座に上がる、また相撲界では十両以上に昇進すると博多織のまわしを締めることが許される…。と、その蘊蓄(うんちく)を知るだけで格の高さがしのばれる博多織ですが、近年では、質実剛健な特性を生かし、和小物など新たなジャンルにも活用されつつあります。まずは、がま口や袱紗で小手調べ。小物といっても、そこは本物の博多織、そのクオリティと美しさに目を奪われて、すぐに博多の直営店まで飛んでいきたくなるかも。
「西村織物」の織物は、直営オンラインショップでの取扱品数は限られていますが、市場では幅広い価格帯の同社製品が販売されています。少し調べてみれば、こちらの帯がいかに多彩なラインナップを誇っているかに感心すること請け合いですよ。