馬籠座歌舞伎を観る前に〜【白浪五人男・稲瀬川勢揃いの場】より〜

江戸時代に始まり、市井の人々に愛されてきた「歌舞伎」には、一方で地方で脈々と受け継がれてきた『地歌舞伎』というのがあります。地元の素人が演じ、お祭りなどの催事に披露していたのだそうですが、中でも日本三大地歌舞伎の一つと言われる岐阜県には現在、全国最多の32の保存団体があります。今回ご覧になっていただくのは中津川市内の保存会が出演する『中山道馬籠宿馬籠座歌舞伎特別公演』。上演されるのは【青砥稿花紅彩画】という演目ですが、通称である【白浪五人男】という呼び名の方が一般的に知られているかもしれませんね。今回は【白浪五人男】の中でも最も見応えのあるシーンを<馬籠座特別版>でお届けします。
【白浪五人男】って?
【白浪五人男】は石川五右衛門や鼠小僧と同様の盗賊物として歌舞伎狂言作者、河竹黙阿弥が執筆し文久二年に初上演された作品で、誰もが名前を聞いたことがある弁天小僧を始めとした五人の盗賊の物語を描いたものです。
白浪五人男というお話は全体がかなり長いのですが、このたび上演される[稲瀬川勢揃いの場]は第二幕三場に当たる部分で、捕り手に追い詰められた日本駄右衛門率いる白浪五人男が大見栄を切る、いわばこの演目で一番派手で見応えのあるシーンです。
歌舞伎の演目では、このように長い演目の有名なシーン、人気のある場面などを抜き出して一つの演目として上演することが多々あります。今回の上演演目も場面的に派手で盛り上がる場面を切り取ったもの。より理解を深めていただくために、ここで前日譚部分のあらすじを少しご紹介しておこうと思います。
プロローグ〜[稲瀬川勢揃いの場]
孤児として子供の頃から悪行を重ねてきた鎌倉の無宿青年、弁天小僧菊之助は流浪の末に大盗賊、日本駄右衛門に拾われます。ほどなく南郷力丸、赤星十三郎、忠信利平らも日本駄右衛門の元に集まり、彼らは白浪五人男と呼ばれるように。
ある日、女装での美人局を得意とする弁天小僧は武家の娘に化け侍役の南郷を従えて、呉服問屋浜松屋へ。冤罪詐欺を仕掛けて強請を働くもたまたま居合わせた侍に男と見破られ、少々の迷惑料とともに追い払われます。しかしその侍こそ浜松屋に目をつけた盗賊五人衆の頭目、日本駄右衛門なのでありました。油断させてまんまと浜松屋に逗留することに成功した日本駄右衛門は、夜になると自ら手引きし浜松屋を襲います。
しかしそこで明白となった驚愕の事実! 弁天小僧は、実は迷い子となっていた浜松屋の実子で、行方不明となった弁天小僧の代わりに養子となった跡取り息子が実は日本駄右衛門の実子だということが判明したのです。
結局何も盗まず、罪も重ねず浜松屋を後にした五人でしたが時すでに遅し。彼らにはすでにお上が放った追っ手が迫っていたのでした…。
[稲瀬川勢揃いの場]に続く…。
楽しく見ていただくためのポイントは?
この【白浪五人男】で描かれる[稲瀬川勢揃いの場]という場面の特徴はなんといっても盗賊五人衆の大見得の部分です。
一人一人が捕り手に向かって大見得を切りながら口上を述べるシーンこそが一番の見所! 浜松屋であつらえた揃いの浴衣に身を包み、これまた揃いの番傘という出で立ち。そして各キャラクターの説明を上手に盛り込んだ名台詞に、それぞれの違った個性を表現するような動きが口上の部分に凝縮されていて、白浪五人男の魅力をもっともよく表している場面といえます。
歌舞伎の持つ様式美や物語性、そして独特な演出法などが短いながらもぎっしり詰まった演目です。ぜひ楽しんでくださいね。
ちなみにこの後も五人の男達の物語は続いていくのですが…その話はまたいつか。
